短歌鑑賞 その1

目次

 ここではおもに近代の歌人について鑑賞文を書いています。

正岡子規
瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる
石川啄木
東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる
若山牧水
山ねむる山のふもとに海ねむるかなしき春の国を旅ゆく
斎藤茂吉
のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり
最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも
斉藤史
白きうさぎ雪の山より出でて来て殺されたれば眼を開き居り
指先にセント・エルモの火をともし霧ふかき日を人に交れり
塚本邦雄
日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
寺山修司
海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
岸上大作
意志表示せまり声なきこえを背にただ掌の中にマッチ擦るのみ
河野裕子
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
コスモスの倒れ伏したる庭に来てしんみりするぜと綿虫が言ふ
俵万智
白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる
はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり
高校生の鑑賞
いちはつの花咲きいでて我目には今年ばかりの春行かんとす(正岡子規)
不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心(石川啄木)
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ(石川啄木)
幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく(若山牧水)
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり(斎藤茂吉)