短歌鑑賞2

岸本 由紀 (きしもと ゆき)

人物

 1970年〜 (昭和45年〜 )。愛知県生まれ。 結社「塔」。

鑑賞

残業の輪を抜け帰る 鈴懸の大きなる葉を蹴散らしながら

 仕事の場で、他の人たちと同じように力を尽くせないのは、つらいものです。命じられた残業であれば、それに応えられない者として排除されるような気分で、気兼ねしながらも他からのそうした評価に耐えなければなりません。また、その仕事に熱意を持って臨んでいる場合には、その仕事への自分の思い入れを断ち切って、後を他の人々に任せなければならない口惜しさも加わることでしょう。残業をせずに帰るということが権利として保障されていて、しかも周囲の人々もそれを当然のこととして受け止めてくれている時にも、本人にとってその「輪」を抜けるわびしさはどうしようもありません。

 舗道に落ちている鈴懸の葉を蹴散らすという下の句の行動描写が、その気分をよく表しています。やり場のないつまらなさ≠ニいったところでしょう。秋の深まりがその気分をさらにわびしいものにしています。

2008年

前へ次へ