短歌鑑賞2

秋場 葉子 (あきば ようこ)

人物

 1966年〜 (昭和41年〜 )。福岡県生まれ。 結社「塔」。

鑑賞

清潔に子を育ており角と角あわせてさびしき鶴を折りつつ

 生まれたばかりの子どもの世話を思い出します。哺乳瓶などは使うたびに煮沸していましたし、室内の湿度などにも気を遣いました。抵抗力が備わりきらない新生児には、清潔な環境は欠かすことができません。上の句は、そうしたきめ細かい配慮をしながら、子どもの世話にひたすら努めている詠み手の姿が提示されています。

 ただ、「清潔に」という言い方には、情愛を抜きにした理知的な冷ややかさも感じさせられます。

 下の句は、子どもが眠った時のことでしょうか。慌ただしさの合間にある静かな時間を、詠み手は子どもを見守りながら折り紙をしているのかもしれません。(子どもがもう少し大きいという場合には、子どもに折り紙をして見せている情景としても読むことができます。)

 詠み手は折鶴をさびしいものとして見ています。「角と角あわせて」という丁寧で几帳面な態度は、子育てに専念する詠み手の気持ちの集注と通い合うものでしょう。子どもの世話に専心する中にも、詠み手は、一抹の寂しさを感じているのだと思います。その寂しさは、自分の時間をすべて子どもの世話に費やしているという状況から生み出されてくるものなのかもしれません。あわただしく世話をしている時は、それに意識は奪われています。しかし、ひとときそれから解放される時間が生まれた時、自分のそうした日常にふともの足りなさを感じるのではないでしょうか。「角と角あわせて」という描写は、所在のない虚ろなやるせなさを思わせるものでもあります。

 子育てに埋没せざるを得ない時期にある母親の、こころの空白感をうたった歌として読みました。もちろん、この歌の寂しさには違った背景もあるかもしれません。

2008年

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