短歌鑑賞2

久我田 鶴子 (くがた つるこ)

人物

 1955年〜 (昭和30年〜 )。千葉県生まれ。

 結社「地中海」。 「雲の製法――小野茂樹ノート――」 「鳥恋行」 「雨を見上げる」

鑑賞

ねぇ虹が出ると思ふと尋ねくるぽつぽつ降り出す雨を見上げて

 「尋ねくる」の主語がありません。たぶん幼子でしょう。倒置法によって付けられた下の句の状況説明が、上の句の会話を印象的なものにしています。尋ねてきた会話の主は、ぽつぽつ降り出した雨からすでに「虹」を思い浮かべているのです。雨が降り出せば、傘をどうしようとか、出かけるのをやめようかとか、とにかく即物的に対応するのが日常的な感覚です。しかも雨降りは一般的には嫌なものです。そんな雨を前に、雨上がりに出る美しい虹を先取りしてイメージできるのは、とても素敵なことに思えます。詠み手も、その、眼前の否定的(?)な状況を越えて、その先にある明るいものを思い描く発想に心打たれているのでしょう。詠み手は、そんな会話の主が可愛らしく思えて仕方がないことでしょう。

2008年

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