短歌鑑賞2

平岡 和代 (ひらおか かずよ)

人物

 1955年〜 (昭和30年〜 )。富山県生まれ。 結社「弦」・「原型」。

鑑賞

母はただ時間を刺してゐるやうで 花ふきんけふも一枚できる

 布巾に花模様の刺繍をしている「母」がいます。詠み手は、その母の一日を、「ただ時間を刺してゐるやうで」と歌いました。「けふも」とありますから、それは毎日のことです。出来上がった花ふきんがどこかに飾られたり、実際に使われたりというような有用の物ではなく、「母」の行為は、何の社会的意味も持たないもののように見えます。時を過ごすために時を過ごす――本人の心持ちは別として、その姿を見る者にとっては、わびしくもせつなくも感じられてきます。

 「母」は、針を一針一針刺しながら刺繍を仕上げてゆきます。その仕方で自分の時間というものを丁寧に刻み上げてゆきます。せつなくも感じられる「母」のその姿は、同時に時をいつくしむ所作としても見えてくるのです。出来上がった「花ふきん」は、そうした「母」の時間の代替物と言えます。どんなにぎこちない刺繍であったとしてもその「花ふきん」はかけがえのない美しいものに思えてきます。

 ここには、詠み手の「母」をわびしむ思いといつくしむ思いが、静かにやさしく歌われています。

2008年

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