短歌鑑賞2

柳 宣宏 (やなぎ のぶひろ)

人物

 1953年〜 (昭和28年〜 )。神奈川県生まれ。

 結社「まひる野」。 「与楽」 「施無畏」など。

鑑賞

ゐなくても不思議はないのに砂浜に坐つてゐると日があたたかい

 自分という存在が消失するという事態に遭遇し、なおも存在することを得た時、存在するということの不思議さ、頼りなさを思うのに違いありません。そのような事態に至らないとしても、自己の死を予感し、或いは想定できる年齢に達した者にとっては、存在することがきわめて相対的なものに感じられ、不思議な色合いをもつものとして感得させられるのではないでしょうか。

 この歌は、そうした不確実な存在として自分をとらえています。「ゐなくても不思議はない」という言い方は、「ゐる」ことをすでに手放した意識の有り様です。しかしながら、それを「のに」と逆転させ、「砂浜に坐つてゐる」という詠み手の存在が示されることによって、自分の存在しない状態をそのまま受け容れている詠み手の、諦念とも言える穏やかな気分が表されています。

 下の句「砂浜に坐つてゐると日があたたかい」だけを読めば、いかにものんびりとした風景です。安閑とした温和な気分に満たされています。自分が存在しなくなることをそれとして受け容れる心持ちは、同時に、自分が存在することをもそれとして受け容れる境地に通い合うということなのでしょう。今在る時を在る≠ニいう気負いのない姿として「坐つてゐる」があり、「日があたたかい」とは、その在る時間をほのぼのと享受している心持ちだと言えるでしょう。

 色々なことに挑み邁進している人でも、時としてこの歌のような心境に入り込むことがあるかも知れません。

2008年

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