短歌鑑賞2

香川 ヒサ (かがわ ひさ)

人物

 1947年〜 (昭和22年〜 )。神奈川県生まれ。

 結社「鱧と水仙」・「好日」。 「テクネー」 「モウド」 「パースペクティヴ」など。

鑑賞

始まりのあれば終はりのある旅の途上で一つ石を拾へり

 「始まりがあるから終はりがある」という、こうした形式論理は香川ヒサの得意とするところのようです。

 「始まりのあれば終はりのある旅」という、「旅」についての規定・意味づけがなければ、歌はほとんど無意味なものとなるでしょう。この「旅」に対する解説的な規定も、当たり前と言えば当たり前のことです。しかし読者は、この修飾句によって、「旅」を人間の一生と読み替えて味わうことになります。また、「終はりのある」というところが強く印象づけられるでしょう。そこには、旅(人生)というものを、終わりの時点に立ってその全体を振り返るというニュアンスがこめられているからです。

 石は、価値のない代表のようなものです。しかし、これは多くの人が経験していることでしょうが、旅先で石を拾ったとすれば、その石はその旅の想い出にまつわる大切なものとなります。石は無価値であるかも知れないが、拾った当人にとってはかけがえのないものとなるわけです。

 この歌では、一つの「石」を拾ったのだとはっきりと確認しているところに注目すべきでしょう。詠み手にとって「石」が何を意味するかは不明です。けれど、それは本人にとっては貴重なもの、もしかすると生きた証とも言えるものかも知れないのです。しかしながら、それは客観的に見れば全く価値のない「石」であると、そのことを詠み手は明確に認識しているわけです。それがこの歌の良さと言えるでしょう。

 一つの「石」を拾うほどのことが私たちの人生というものなのだろうか。一つの「石」を拾うことができたとすれば、それはすばらしいことなのではないだろうか。――この歌の後に、どんな思いをつなげればいいのでしょう。

2008年

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